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【杜氏は、影です】金虎酒造株式会社 杜氏 木村 伸一氏

2018年6月8日 at 16:24

木村杜氏といえば、越後杜氏に師事し、28歳の時はじめて醸した酒で愛知県知事賞を受賞した偉才。以来杜氏としての功績は著しく、日本酒業界の関係者なら誰しもが、その腕に一目置いている存在です。
今年度も金虎酒造として三年連続金賞を受賞し、その突き抜けた才能を見せつける結果となりました。その金賞受賞酒を味わい尽くすパーティー「大吟醸ナイト」(満席御礼)を前にしたロングインタビュー。

金虎酒造株式会社 杜氏 木村 伸一氏(以下敬称略:木村)
日本酒ディレクター 田中 順子(以下:田中)

▲昨年の大吟醸ナイト。ずっとサーブし続ける木村杜氏

田中 杜氏として、香味を決める際のゴールはどこに設定されていますか?

木村 タンク最後の一滴まで、です。醸した状態で終わりではなくて、お酒の変化も込みで考えています。詰めて出荷する、その先までの味をコントロールしたいと思っています。

田中 その先、というと、物流や提供など、多くの人の手が介してしまうと思いますが。

木村 通年において香味の安定、品質にこだわりたいのです。どんなシチュエーションでも、どんな保管状態でも、美味しくなかった場合、それは全て僕の責任であると考えています。

田中 そこまでの責任で管理するとなると、販売側に氷温貯蔵保管を義務付けする蔵元もあるように、どこまで管理するか、という問題になりませんか。

木村 よっぽど変な扱いをしない限り、すぐに劣化することはありません。保管状態のせいにするのではなく、芯の強い酒をつくれなかったのだ、と僕は受け止めます。相反するように聞こえるかもしれませんが、そういう意味も含めて、造りは7割で美味しくなければならないと思っています。残りの3割は買ったお客さんや、提供される方の範疇です。遊びの部分をあえてつくり、後は買った人が楽しんで、お酒をより美味しくする人たちの余地を残したい。僕はガンプラ世代ですが、あれも自分で組み立てて、色を塗るから楽しい。プラモデルのように商品として完成していながら、最後はどう楽しむかという遊びを残せることがベストです。だから田中さんのように、こちらが驚くようなペアリングしてもらえるとすごく嬉しいんですよ。

田中 恐縮です・・ありがとうございます。しかし圧倒的な美味しさを表現しつつ、造りは7割という感覚は神がかっていますね。その造りにおいて特に意識している事を教えてください。

木村 昔から「一麹二酛(もと)三造り」と言われるように、麹は一生懸命やるのは当然のことなので、今は酛(もと)に注目しています。これまでの経験とデータ分析から、酛(もと)の酸味が、後半かなり味の格になってくることが分かって。金虎の酒は基本、辛口を目指してはいるのですが、僕は日本酒度+10とか単純に日本酒度をキーにした辛口の酒造りではなくて、トータルな味のバランスで辛口に持っていきたいと思っています。そうするとキーになるのが酸、酸を決めるのが酛(もと)だなと。酸っぱいって感じるほどの酸ではなく、引き算の酸味です。日本酒での酸度指標は総酸度なので、どの酸がどれくらいというのは細かく酸組成をみないと分かりません。主に乳酸とコハク酸、乳酸も大きく分けて二種類あります。添加乳酸は単調ながら綺麗な酸で、生酛(きもと)などの酸は複雑味のある味わい深い酸です。通常は蔵のコンセプトもあり前者を使っていますが、ヨーグルトのような酸組成にしてみたくて、醸してみたのがチャレンジタンク2017です。

田中 提供側の表現として冷涼で綺麗な酸、濃醇で余韻の長い酸、とか様々な表現がありますよね。しかし表現すら必要がない酸、というギリギリの引き算、バランスが本当はすごく心地よくて、食事が美味しくて仕方ない、というポイントではないかと。実はそのポイントを木村杜氏は常に狙っていらっしゃるのでは?虎変の秀逸なバランスの謎が解けたような気がします。

木村 そうですね。とはいえ、酸についても、酒単体で美味しい酸は7割にしておきたいんですよ。料理の酸と融合した時に最大限の心地よさを感じるというのがベストだと思うので。深みのある酸については昨年でトライしたので、今年のチャレンジ(チャレンジタンク)は分かりやすい酸にしようと思っているんです。

田中 まさに木村杜氏ならではの、裏の酸と表の酸、の使い分けですね。

木村 酸をコントロールしたいという意味ではそうですね。裏と表、陰と陽。なんかいいテーマできちゃいましたね(笑)

田中 最年少金賞受賞杜氏と呼ばれてから月日は経ちましたが、今年も金賞受賞、業界では常にトップランナーである木村杜氏に、ここまでお話をうかがえて嬉しいです。しかし、スター杜氏として取り上げられる事を極端に嫌がられるのは何故ですか。

木村 僕はそういうことにあまり興味がないというか・・・。こんな事を言ったら専務に怒られますけど。できれば、僕の作ったお酒だと知らずに飲んで欲しいんです。杜氏というのは、影です。主役は絶対的にお酒であって、僕がつくったという情報で美味しくなる、ということはないほうがいい。不本意に、何も知らないところで、何の先入観もなく飲んで、美味しいというのが理想なんです。つまり、それが一番美味しいということですから。

田中 以前、左官屋さんのお話をされてましたが、壁にサインする人はいない、ということと同じような想いでしょうか。昨年の大吟醸ナイトでも、自らずっとお酒をサーブされていて、スタッフがずっとやらせていていいのか?と心配していました。

木村 今年もやらせてください(笑)1スタッフとして、皆さんにお酒を注いでいたいんですよ。飲まれた時の表情を見るのも好きですし、率直なご意見も聞けるので。

田中 では、是非、お願いします・・。話は変わりますが、今年は杉江さん(蔵人) も随分と成長されたとうかがっています。

木村 多分、彼女は何も教えてくれないと思っていると思うけど(笑)僕のスタンスは、最後の責任は僕がとる、って思っているので、それは最初から伝えています。しかし今期は大分任せられるようになって、失敗したら取り返しがつかない部分まで担当してもらえるようになりました。これから日本酒業界も変わっていき、蔵元杜氏が増えていくでしょう。蔵元杜氏が悪いという事ではなくて、出稼ぎ杜氏というのは、美味しくなかったら首を吊るような人間の集団なんです。どういう仕組みで酒ができるかもわからない時代から、自然の神秘のコントロールを、命をかけてやり遂げる気概みたいなものを、次に繋いでいくのが僕の使命だと思っています。蔵元杜氏が増えて、社員杜氏が手づくり、しかも小仕込みで仕込んでいくというのは今後減ってくる。それをどう伝えていくか、を考える日々です。形を変えても残していかないといけないと思っています。だから蔵元杜氏でやりたいけど、技術が足りない、っていう部分にうまくはまっていけばいいなと。その辺は、杉江にもかなり期待しているんです。本人には言いにくいけど、これから先、結婚して、子育てしても、一段落したら戻ってきて欲しい、と思っています。

田中 蔵人の仕事が子育てしてからでもできると、もっと早く知りたかったです。遅きに逸しました(遠い目)

木村 蔵に入ったら絶対僕のこと嫌いになりますよ(笑)

田中 そうかもしれません(笑)なるべく造りの期間は木村杜氏に接触しないように気をつけています。以前造りに入ったら人と喋るのが面倒くさいとおっしゃっていたので。

木村 申し訳ないです。一度造りに入ってしまうと、僕の中では毎日微生物との会話がメインになってくるので、言葉に変換するのが億劫な状態になるんですよね。喋らない(喋れない)コミュニケーションが主体になっているので、その状態の僕と言語でコミュニケーションするのは自分で言うのも何ですが至難の技かと。

田中 しかし、ついていかないとむずかしい蔵の人達は、時間がない中で木村杜氏の真意を推察しなければなりませんよね。すると間違いも起きやすいのでは?

木村 そう、それが一番良くないですよね。水野専務や杉江はそこが上手で、本当に有難いです。僕がふっと気が抜けた時にさらっと聞いてきてくれるんですよね。

▲入念にテイスティングする木村杜氏

田中 絶妙に連携が取れている金虎酒造さんですが、今後の方向性を教えてください。

木村 杜氏としては、虎変というブランドを立ち上げて、軌道に乗ったのか?をしっかりと確認しないといけないと思っています。5、6年のスパンで、ロングスパンなりの(熟成による)香味バランスというのも追求していかなければと。

田中 そうすると、昨年の大吟醸ナイトは大吟醸3年の垂直でしたが、今年は蔵の方向性を感じながら楽しめそうですね。

木村 はい。何事も結論出すのに、3年はかかるので。特に造りは1年やって結論じゃないので、次のスパンについて検証するには3年かけようと思っています。逆に3年やったら検証の時期、ということです。

田中 検証結果はどういかしていくのでしょうか。

木村 いかすために、変えたいことは沢山あります。しかし焦らないことが大切。蔵の中におけることは1個変えると全部変わってしまう、ということがあり得るので。何が原因で香味が変わったのかが、追えない、判別できないということにならないように、順序立てて検証する必要があります。だから変えたい、良くしたい部分は山ほどありますが、我慢比べのように、全てを一気に変えるということは避けています。

田中 (木村杜氏をもってしても)まだ、やることはたくさんあると。

木村 もちろんです。

田中 日本酒業界において、変えていった方がいいと思われることは?

木村 日本酒は情報発信力が足りないと思います。ラベルも分かりづらいですし・・。本醸造、って何なんだ?とかね。分かりにくいことが多い。

田中 確かに、香味のクラス、レベル分けが判断しづらいですよね。ワインのような格付けでもあれば、と思う時がありますが、誰が格付けるんだ?という違う問題が出てきますし。

木村 格付けいいと思いますよ。格付けて欲しいです。僕自信ありますから(笑)
 
 
金虎酒造株式会社
名古屋市北区山田三丁目11番16号
http://www.kintora.jp/