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【いかに逸脱するかが、勝負】金虎酒造 杜氏 木村 伸一氏 2020 vol.1

2020年6月7日 at 15:02

大吟醸ナイトも今年で4年目となりました。
愛知が誇る、金虎酒造の木村杜氏へのインタビュー。そろそろネタも尽きるのではないか?と言いながら始まったインタビューは予定の1時間を超え、田中が水野専務とのライブ配信に遅刻するほどに盛り上がりました(専務すみません・笑)。とてもまとめきれないので、2回に分けてお届けします!

金虎酒造株式会社
杜氏 木村 伸一 氏(以下敬称略:木村
蔵人 杉江 志保 氏(以下敬称略:杉江
取材 日本酒ディレクター 田中 順子(以下田中

造りやすかった理由
田中 今年の造りはいかがでしたか?
木村 暖冬で気候がなかなか安定しなくて、米は溶けにくくて、すごく変な味の出方する年でしたが、今年はすごく造りやすかったです。
田中 すみません、全く造りやすそうな気がしませんが…。
木村 いや、米が溶けるとか溶けないとか、あれ?どっちだったっけ?(笑)って、思い出せないぐらい、本当に調子が良かったのです。暖冬とか米の溶解度とか、そういう次元ではなくて、1個上のレベルですごく造りやすかったです。
田中 1個上のレベル、というのは?
木村 何やってもうまくいくというか…。同じような感覚を、何年か前にも感じた事がありました。驚くほど造りやすい、と思えた年があって。そう感じたのは今年で2回目なので、何故こんなに造りやすいのか、しっかりと記録から検証してみました。それで気がついたのですが、つきつめると、「周りの環境」なんですよね。
田中 周りの環境?
木村 はい。専務はもちろん、杉ちゃん(蔵人)が広島研修(酒造技術者研修)に行って帰ってきて、一皮むけて。より安心して作業を任せられるようになりました。金子さん(営業)も2年目で存在感が出てきて(笑)、なんだか蔵全体が明るくなりました。あとはすごく気がきく恵美さんや、つくり手の気持ちをお客様にきちんと伝えてくれる由香さん(販売)がいてくれる。そうした皆に託せる、という基盤が整っていること、それが有り得ないほど造りやすい理由だったのだなと。そして、これ大吟醸ナイトのインタビューだからってお世辞言う訳ではないですが、大吟醸ナイトとか、蔵のイベントに来てくださるお客様が、ものすごく優しいのですよ。もっともっと、この人達に美味しいお酒を飲んでもらいたい、と思うような言葉を幾度となくかけてくださって。そうした言葉の力で、造り前から僕のモチベーションがかなり上がっていたのも大きいと思います。
田中 それはただマンキンで美味しかっただけじゃないでしょうか…。(遠い目)
木村 だとしたら尚嬉しいですね(笑)。おかげ様で、ノンストレスで、造りだけにかなり集中できました。以前も同じように感じたことがあったと言いましたが、それは前の蔵の時です。でも当時、それが周りのおかげだということに気が付けていませんでした。自分が、自分の力で集中して造れたからだと勘違いしていたのですよね。だからその年の翌年は、その造りやすさを再現できませんでした。今思うと未熟だったなと思います。今は集中させてもらえるし、本当に幸せな環境にいることに、心から感謝しています。

田中が遅れた分、ライブ配信をお一人でつないでくださっていた水野専務

広島研修参加後の杉江さん(左)

ムードメーカーでもある金子さん

醪と、会話せよ
~遅れて杉江さん(蔵人)登場~
田中 あっ杉江さんこちらへ!木村杜氏が相変わらずすごいイイコトばかりおっしゃっているので助けてください!杜氏のダークな面も書かねばなりません(笑)木村杜氏は微生物の声が聞こえている、という噂もありますが、現場ではどんな感じなのでしょうか?
杉江 ダークな部分言ってもいいのですか?(笑)ええと、微生物の声が聞こえている、という訳ではないと思いますが、雰囲気で感じ取っているのだと思います。
田中 雰囲気、ですか?
木村 昔、師匠に『醪(もろみ)と会話せよ』とよく言われました。こっちのいう事を聞かせる、という意味ではなくて、相手(醪)の声を聞く、という意味です。通じ合うために。
田中 やはり声は聞こえている…(笑)
杉江 というか、まだ言葉が喋れない赤ちゃんを育てている時の、不思議と察知するお母さん、のような感覚が近いかなと思います。
田中 なるほど!しかし、木村さんと杉江さんは言葉を交わすのですよね?
杉江 造りの作業中はほとんど喋りませんよ。杜氏は何かあると、怒るとかはないですけど、分かりやすく態度が変わるので。こちらもそれに反応して、なんとかついていく感じですね。
田中 やはり喋らないのですか、怖いですね(笑)
木村 僕が作業中に必要なことを一切喋らない、という訳ではないですよ(笑)。ただ喋っていては間に合わないのです。アイコンタクトより速い対応が必要な現場なので。
田中 ということは、造りに入る前に十分に段取りや作業内容は確認し合うのですか?
木村 んー。詳細に段取りを確認することはしませんね。だんだんそうなっていく、という感じです。ある程度は決めておくのですが、作業しているうちに、その時の雰囲気でどんどん変えていく事の方が多いです。
田中 言葉を交わす暇もないのに、ゴール設定は木村さんの頭の中にしかない、ということですか?
木村 いや、僕の中にもきちっとしたゴールはないですよ。最終的なゴール、枠については、僕自身もぼんやりしたままスタートします。そうした枠を作らないように、あえてしているという方が正しいですね。酒造りは微生物との共同作業ですから、微生物とコミュニケーションしながら、枠を決めていきます。コミュニケーションといっても、米や、酵母の個性を引き出すために会話する、ということ。個性をどう引き出して、どういかすか、という主導権はこちらが持ちます。しかし、微生物たちと会話をせずに、枠を決めて無理やりそこへ追い込もうとしても、いい酒にはならない。蔵の酒質を上げようとか、香りをこれぐらい出そうとか…。造る前から明確な枠決めをする、そうしたギラギラした狙いみたいなものを造りに入れ込むと、大体うまくいかないのですよ。酒造りに入ったら、ただ醪と会話しながら、酒造りそのものに没頭した方が、結果いい酒ができると思います。
田中 造り中は野心を持たずに、醪の声を聞くことが大事だと。
木村 そうですね。
田中 そうした意味では、金賞取るぞ!みたいなことも、造り中はあまり考えないのですか?
木村 はい。元々僕はあまりそこを気にしていないので、造りに入ってしまえば、全く考えていません。金賞をとれるような造り、という意味で事前に大枠は決めますが、あとはずっと醪と会話していくだけですから。

コロナ渦により新酒鑑評会の結審中止
田中 今年の新酒鑑評会については、コロナ渦で審査員が集まれず結審が中止となりました。そのため全国で金賞がなくなり、最高賞が入賞、つまり金虎酒造も金賞ではなく入賞扱いです。4年連続金賞、今年も確実と言われ、事前の地区別審査で唯一の知事賞を受賞されたのに、金賞という評価そのものがなくなってしまいました。こうした異例の事態について、杜氏としてどのようなお気持ちですか?
木村 鑑評会の結審がなかったことについては、無差別で審査される貴重な機会なので残念は残念ですけど・・・。正直僕はあまり気にならないですね。
田中 杉江さんはいかがですか?
杉江 本当に残念だな、と思いましたが、杜氏がこういう感じなのでちょっと吹っ切れました(笑)「結審がなかったからこそ、金賞がとれなかったものとして、来年もっと頑張ろう」と今は思っています。
田中 ズバリお伺いしますが、今年もとれると思っておられましたよね?
木村 はい(笑) でも、金賞取れなかったとしても、「今年はいい酒が造れた」という感覚は揺らがないので、僕は。
田中 金賞常連蔵となり、ご自身も有名になるにしたがって、金賞含めて外部の評価が気になったりすることはありませんか。
木村 そこは、気をつけています。例えば、著名な業界の方々が『いい香りのお酒だ。』と褒めてくれたりすると、「いい香りのお酒造らなきゃ」って、引っ張られそうになることがあります。でも、自分が本当に造りたい酒はどういう酒なのか、目指すべき方向性そのものは、杜氏として自分の感覚で決めないといけません。あくまでも例えですが、「香るお酒といえば木村」といったようなことが業界から求められたとして、ですよ? 本当に自分がそこに行きたいのか、ということは俯瞰して見るようにしないと。皆さん色々褒めてくだるし、褒められれば嬉しいので、もっと褒められよう、となりがちですが。
田中 すごく共感します。世間が求めるキャラに自分をはめ込もうとして、無理が生じてしまうような状態は良くないですね。メディアや消費者に引っ張られる、という危険性はSNS全盛の今、常に心に留めておかなくてはいけないと思います。いつの間にかマーケットの評価ありきで造りだしてしまうと、香味の軸がズレますし。それはつくり手、特に杜氏にとっては致命傷になりかねません。
木村 そうですね。自分の想い、自分の考えでお酒を造ることができなくなってしまっては本末転倒なので、気をつけるようにしています。色々いただいたご意見については、有難いですし、真摯に受け止めたいと思っていますが、酒造りについて自分の軸、感覚はブレないようにしないと。
杉江 唎酒と一緒ですね。周りの評価を聞いてから唎酒すると、自分の意見が引っ張られるから、まずは自分の中で評価を落とし込むことが必要だ、と以前杜氏から教わりました。
木村 え? 僕そんなこと言った?(笑)
田中 うーん、なかなかダークな部分が引き出せそうにないので次の質問を(笑)
木村 はい(笑)
杉江 はい(笑)

攻めに攻めた出品酒
田中 大吟醸ナイトオンラインでは、なんと鑑評会出品酒もラインアップされています。出品酒は本来、一般には出回らない酒です。これは新酒鑑評会後の行事が中止となったために、その使用分を特別に味わえるということですよね。今回先駆けてテイスティングさせていただきましたが、いい意味でこれは本当に出品酒なのでしょうか?そう思う程に、攻めた香味でした。かなり味のりもしています。どういった意図で醸されたのか、是非教えてください。
木村 そうなのですよ、本当にこういう状況だからこそ、皆様に飲んでいただける特別な機会となりました。そして確かにかなり今年は攻めました。かなり調子よかったので。
田中 正直、金賞は当然で、それ以上を狙っている感じを受けました。何か意図をもってセオリーから逸脱しないとこうはならないのでは。
木村 はい。もちろん出品酒なので、アルコール10%以下の時は、しっかりライン(ボーメ曲線)にのっているか、というのをきちんと見ています。けれど、アルコール10%を超えてからは、いかにギリギリまで逸脱するかが勝負だと考えています。教科書通りにやっても、ほどほどの味にしかなりません。僕は、その先に行きたいのです。
田中 教科書、ほどほどの味とおっしゃいますが…。金賞を狙うということは、車でいうF1みたいな世界ですよね。教科書通り、セオリー通りに醸すだけでもかなりハイレベルで、それが可能な技術力があるか?というのが審査基準です。そんな最高峰の舞台で、香味のためにギリギリまで逸脱する、というのは凄いと思いますが、その走りはスピンや破損と紙一重、恐怖心はないのでしょうか?
木村 ものすごく怖いですよ(笑)。でも周りの環境が良かったから走れたのですよね。人に例えると、ある程度顔色見ておけば分かることってあるじゃないですか。ここまでなら笑ってくれる、ギリギリを狙う感じ。それがうまくいくとすごく面白い、とかね。タンクでいうと、あと0.1℃下げるか、あと水を5ℓ入れるか、の世界ですが、そこに挑戦したいのです。もちろん家に帰る時はめちゃくちゃ不安で仕方ありません。そして、朝来て面(つら:もろみの状貌)を見て、無茶苦茶ほっとする、という繰り返しですね。
杉江 後から、あれってどういう意味だったか聞くと、かなり攻めていて怖いですよ(笑)

入念にテイスティングする木村杜氏

伸びていく酒
田中 少し気になったのは香りです。穏やかにいい香りだけが立っていますが、鑑評会向けとしてはもっと香りを高くする必要があるのではありませんか。それこそセオリー通り、と言われそうですが。
木村 確かに出品酒は香り高いお酒が多いですね。ただ、香りの高さはppmで表しますが、面白いことに、純粋に数値が高ければ香る、という訳ではありません。
田中 数値が低くても香り立つ酒もある?
木村 そうです。もちろん逆もあるのですけどね。僕が目指すのは、数値が低く香りが立つ酒です。
田中 つまり香りの高さというより香りの「質」の問題ということですか。
木村 はい。香味的には香りは出すぎても良くない。第一、香り高すぎると飲みにくいですよ。
田中 そうですよね。香りが高すぎるお酒は、足が早い傾向がありますし。鑑評会の酒は、出品時にピークを持っていって賞をとる、という手法が多いと思うのですが、もう一般公開時には、ピークを過ぎている酒もあります。
木村 僕は「新酒」鑑評会なので、そこがピークではなく、スタートであるべき、という認識です。
田中 以前、お客様の手に届くまで美味しいお酒であることが杜氏の責任だとおっしゃっていましたね。
木村 はい。お客さんの手元に渡った時に、ピークが来てほしいのですよね。伸びていく酒が好きなのです。ですから鑑評会がピークではなく、5年経っても美味しい酒を造りたい。お客さんが買って、記念日に飲もうと、常温でその辺に置いておいたとしても、飲んだら美味しいというお酒が理想です。
田中 それは大吟醸ナイトで既に実証されていますよね。垂直ビンテージを味わうと、大吟醸でも、賞味期限はないどころか、味に深みが出てくるのが分かります。それぞれの伸び代の大きさを感じますね。
木村 僕としては、米や酵母の個性を最大限にいかせられるか、がテーマです。ですから、1年目の酒、2年目の酒、3年目、4年目…とで熟成度が逆転する年があるのが、面白いなぁと思っています。前の年の酒の方が新鮮、ということもあったりしてね。そういう意味でも何年か経ってから、今年の酒をもう一度みて、熟成に対する可能性をみてみたいですね。
田中 大吟醸ナイトが続く限り、さらなる酒の可能性を体感できそうですね!すっかり宣伝みたいになってしまいましたが(笑)、楽しみにしています!

6月13日は大吟醸ナイト!今年はオンライン開催

Vol.2(新銘柄「名古屋城」石垣製法を徹底解説 編)に続く
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